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看護 2007年3月号別刷『患者満足度向上に向けた効果的な研修法』

看護師向けの患者満足度向上研修(以下、研修)を実施する際、効果を上げるためにはどのようなことに力点を置いたらよいか。そのポイントを紹介する。

体験学習をメインにする

研修は、実習や演習、ロールプレイなど、体験学習を多くします。講義と体験学習との割合は3対7、参加者のレベルによっては2対8でもよいくらいです。体験学習を多くする理由は「こうすれば患者満足度向上ができる」という感覚を研修の中でつかんでもらうためです。体験を通して得た感覚は、職場に戻ってもモチベーションを下げることなく、実践に活かすことができます。

特に、設定もレベルも参加者に合わせて自由に変えることができるロールプレイは、研修の場に職場を再現することができるので効果的です。例えば、ある職場を設定して「仕事復帰を急ぐ患者のケース」を学んだ直後に、「次の日、その患者さんのご家族から『病院を変えたいので、先生に連絡してほしい』と言われた」、というように難易度を上げていきます。難しいロールプレイとなりますが、患者も家族も納得した時、「こうすれば患者満足度がアップするのだ」という手応えをつかむことができます。

振り返りでは、次のように参加者の気づきや課題を出していきます。①患者満足とは家族も含む。両者へのサービスが求められる、②マナーや態度など表層的なサービスに気を取られがちだが、本質的なサービスを忘れてはならない、③苦手な医師や関連部署との連携を積極的にしなければ患者満足につながらない。

何ケースか実践するうちに「患者満足度向上のためには自分のスキル向上が必要だ」「もっと勉強しなければ」と自分に引き寄せた課題を見つけます。このようにロールプレイは、正しく使えば、教育の必要性を「自分で発見」し、職場に戻ってからも継続的に学ぶことを可能にする学習法なのです。

「感じるカ」「観察力」を鍛える

患者からの苦情が多い看護師や、患者とトラブルを起こす看護師は、態度やマナーの問題以前に、「感じる力」「感性」が弱いことが原因なのではないかと思います。

例えば「おじいちゃんjと呼ばれたい人と「名字」で呼ばれたい人の区別ができずに逆の呼び方をしていたら、両方の患者からマナーが悪い不愉快な看護師だと思われます。患者の微妙な反応や変化を感じることができないから逆の対応になってしまうのです。

しかし、「感じる力」を身に着ける、「感性」を磨く、と言っても具体的にどうしたらよいのでしょうか。的確に患者の心を捉える看護師は、患者の話に本気で耳を傾け表情や様子を注意深く観察しながら話をしています。必要であれば確認や質問もします。こうして得た患者のデータが根拠となって適切な対応をするので、結果的に患者満足につながるのです。

一方、患者が不満足と感じる看護師は、患者の動きを読むポイントがわからないので、よく見ずに勘や勝手な思い込みで雑に対応します。当然、見当違いのことも多くなり苦情につながるのです。

そこで、、研修では観察力を鍛えるプログラムを用意します。どのような表情や姿勢をしているか、声の調子はどうか、どんな言葉を使っているか、何か変化はなかったか、沈黙したのはいつからか、表情が変わったのはどの時点からか、どんな言葉に反応していたか、このようなことを、ロールプレイを時々止めて質問し気がついたことを話し合い、対応を考えます。

そうすると観察ポイントが少しずつ理解できるようになります。高い専門性や豊富な経験がなくても、観察がきちんとできると対応が変わり、患者の満足度もアップすることを実感してもらいます。

「患者さんの立場に立って」とか「患者さんの気持ちになればわかるでしょう」と、察することを声高に要求する先輩や師長を見かけますが、それで「感じる力」は身に着きません。

「患者評価」は大事な情報源

患者からの苦情を受けた師長や先輩が、マナーや態度面の指摘をしても、「私は悪くない」「あの患者さんとは価値観が違う」と意に介さない人や聞き直る人がいます。このような人の指導法を紹介します。

1 気づきの演習

自分が他者にどんな評価をされているか、ダイレクトに知るための演習をします。1グループ6~8人ずつに分けて順番を決めます。1番の人はその場で立ち上がり、他のメンバーは目を閉じます。目を閉じている他のメンバーを患者に見立て、声をかけていきます。

「おはようございます」「お大事に」「担当の○○です」などのあいさつや、「お待たせしました。これから検査室に行きますね」など、職場で、実際に使っている言葉をかけます。言葉をかけられた患者役の人は、感じがよいと思えば手を挙げ、そうでなければ挙げません。

こうして1~2分、10~15項目くらいの声かけをします。なかなか手を挙げてもらえないことにショックを受ける人もあれば、どんどん手が挙がり自信を深める人もいます。時間が来たら次の人に交替し、患者の立場になります。この演習の中で、看護師の立場を1回、患者の立場を数回経験したところで振り返りをします。

2 振り返り

最初に参加者同士、気がついたことを自由に話し合ってもらう時間を設けます。誰かが「一人も手が挙がらない時は真剣に焦った」と言っただけで笑いが起きるほど演習にはストレスがありますので、ここは参加者に任せ、クールダウンをします。

その上で、患者評価は患者満足度向上には欠かせない情報源であることを理解させます。どんな仕事でも、顧客から厳しい評価を受けるのは当たり前です。病院も同じで、患者や家族からマイナスの評価を受けることは避けられません。避けられないのですから、ど
んな評価も情報として受け取り、よい評価を得られるように改善するという発想が大切なのです。

演習で手が挙がらなかった時、気落ちしたり、恥ずかしがったり、相手を恨んだりする心情は理解しますが、そこで、発想を変えて、手が挙がらなかったことを情報として受け止め、どの言い方だったら手が挙がるかを探し出す。この粘り強い姿勢が、厳しい患者評価に対応し患者満足度を向上させる秘訣なのです。

ただし、「私は悪くない」「あの患者さんとは価値観が違う」と言い張るような人には、「患者評価は情報源」と言っても理解ができない可能性があります。その場合は、「マナーやサービスは病院経営に直結している。看護師や医師の対応が気に入らないという理由で、患者さんが違う病院に行ってしまったら、業績はマイナスになる。自分の対応が患者さんの怒りや不評を買っていると感じたら、それは病院にマイナス貢献しているので慎んでほしい」と指導します。

研修では一般論として講義しますが、職場では本人に事実に基づいて具体的に指摘します。言い方はあくまでも穏やかに、しかし内容は事実に基づいて。

患者満足度向上のための指導スキル研修

集合教育である患者満足度向上研修を一過性に終わらせないためには、職場内教育と連動させる必要があります。研修で気づいたこと、発見した課題を職場に持ち帰り、引き続き師長・副師長・主任など指導役から教わる。これが教育の連動です。

しかし、連動するためには、職場内教育で教え手となる指導役の養成が必要になります。通常の看護に関する専門性の指導ではなく、患者満足度向上に関する指導スキルについては、自信がないと思っている管理者が多いと感じます。マナーやサービス、接遇・態度などを教えることに苦手意識を持っている方もあります。

そこで、研修として、患者満足度向上のための指導スキル研修(以下、指導者研修)の企画・実施をお勧めします。指導者研修は、主に職場で1対lで教える時の、指導スキル、コミュニケーションスキルの強化が目的です。

例えば、患者とのトラブルが多い後輩に対し、「ダメじゃないの。患者さんを怒らせるなんて信じられない。もっとしっかりやってよ」と怒るだけの主任。後輩はやる気を失うばかりか、何をどうしたらよいか対応のヒントさえつかめません。トラブルはまた起きるでしょう。

この場合、師長は二人の部下に、どのようなコミュニケーションを取って何を教えたらよいでしょうか。指導者研修は、実際のケースを使って実践力を着けていきます。

合同研修の意義と効果

看護師対象の研修で必ず話題に出るのは、「なぜ看護師だけが参加対象なのか?医師や技師、その他の職員などは必要ではないのか?」という素朴な疑問です。

病院として「患者満足度向上」を目指すなら、患者に接する人すべて、つまり病院の職員全員に研修ニーズはあります。ですから全員参加の研修を実現すべきでしょう。

やり方は、合同研修が効果の点で優れていると思います。医師・看護師・技師・受付の職員が、同じグループになって、冷たくたらい回しされたと怒る患者のケースを考える。医師だけ、看護師だけのグループよりも、はるかに内容の濃い話し合いが行われます。

犯人探しや縄張り的な役割意識でいがみ合うのではないかと心配する向きもありますが、筆者の経験上では全くありません。むしろ、お互いの大変さを理解し合い、どうしたら協力できるかを建設的に考える明るいグループばかりになります。

情報交換がすぐにできるので、新しい情報を仕入れて帰るグループもあり、研修時間が短いという声さえ挙がります。デメリットを探すとすれば、参加者の日程調整だけのように思います。合同研修の事例については、以下の、筆者が関わった国立成育医療センターの記事を参照ください。

今井敦子(いまいあつこ) 国立成育医療センター副看護部長

開催の経緯

当センターでは医師、看護師・助産師、その他の職種計131名を対象に2006年4月3日~10日の間で計5日問、新採用者研修を実施しました。その中で、「患者満足(CS)・マナー」というテーマで、近藤成子氏に講義をお願いしました。同年2月に看護部院内教育研修で「ストレスとコミュニケーション」というテーマでご講演いただいたことがきっかけとなり、患者満足度向上への接遇は看護職だけでなく、医師や他職種も含めて学ぶ必要があるということ、また、患者からの意見は、医療者の態度などへの不満によるものが多いという現状を踏まえ、まずは新採用者全員を対象に講義してもらうことにしました。

当日の反応

前半は講義、後半は演習で、5~6人がグループとなり、1人が後ろからグループメンバーに向かって同じ言葉を印象を変えて話しかけ、どのように感じたかの意見交換を行いました。声だけのメッセージで快・不快などの印象を相手に与えていることなど、私たちの日頃の対応が、その後の患者へのコミュニケーションにつながっていくことの重要性を痛感しました。

研修生は初対面同士で、最初は少し戸惑うような様子も見られましたが、すぐに慣れ、にぎやかな演習となりました。

研修実施の感想

研修日程の都合上、100分という限られた時間でしたが、全員が真剣に参加し、有意義な学びだったと思います。演習も短時間で体験できる内容で、「サービスとは患者の言いなりになること」ではなく、「患者の求めているものを理解し、満足を得ていただく対応にベストを尽くすことである」といったお話が心に残りました。

参加者の声

研修生のアンケート結果から、本研修への関心や理解度が高かったことがわかりました。「初めて自分の接し方を見直すよい機会になった」「大変ためになった」「意識して実践していこうと思った」といった意見が挙がりました。

今後の研修

患者への対応は、病院の評価につながります。患者は病院に「治してほしい」と願うと同時に、「向き合ってほしい」と思っています。

私たち医療者にとって、患者満足度向上に向けて取り組むためには、病院という場所で、患者が求めていることは何かを知って対応することが必要です。そのために、新採用の時期に意識づけをし、その後は経験者を対象に定期的にこのような研修を実施し、日頃の対応の振り返りをすることが必要と考えます。

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