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緩和ケア別刷VOL.15,No.6 2005『自己認知的なストレスへの対応』

はじめに

苦手な相手や葛藤場面に遭遇した時,緊張やストレスを感じるが,医療現場で働く看護師のストレスはとりわけ高いと思われる.

2005年の6月と9月に弊社(近藤教育企画)が実施した看護師向けの研修内で行った「ストレスに関するアンケート調査」でも,ほぼ100%の人がストレスを感じながら仕事をしているという結果が出た.また,96%の人が「ストレスに関する教育を受けたい」と希望していた.これは,今,医療の現場では看護師に対するストレス教育が,緊急かつ重要な課題であることそ意味している.

そこで本稿は,ストレスに対応するコミュニケーションスキルとして弊社研修で使用している「論理療法」と「アサーション・トレーニング」を紹介してみたい.この2つは,カウンセリングの分野で認知行動療法の技法としてよく知られているが,カウンセラーの資格がなくても,正しく理解すれば職場のOJT教育(職場の仕事を通して上司や先輩などが行う教育)や職場勉強会などに連動させ,職場全体のストレス防止の教育スキルとして実践的に活用できるものである.

論理療法を活用した対応スキル

ストレス対応スキルの1つ目は,論理療法を使ったスキルである『論埋療法の提唱者アルバート・エリスは,「悩みやストレスはその人の考え方によってつくられている」という.これが論理療法の中心的概念である.

たとえば,苦手意識をもつ同僚に対して「一緒に働くことはできない」と考えるか,「成長のチャンスと思うか.仕事でミスをした時に「致命的だ」と考えるか, 「挽回はできる」と考えるか,考え方によって不快なストレスになる場合もあれば,ストレスが希望や勇気に変わることもある.確かなことは,「一緒に働くことはできない」「致命的だ」と否定的に考える人は,「成長のチャンス」「挽回はできる」と肯定的に考える人より, イライラや悩みがつくられやすいということだ.

論理療法は「自己認知的ストレス」を肯定的な考え方に変えることで,ストレスや悩みをなくしていこうとずるスキルである.

1 ABCDE理論

論理療法は,ABC理論として出発した.「出来事(A)」「受け止め方・考え方(B)」「感情・結果(C)」の関係性が重要である.

人が出入りするたびにバタンと音がするドアがあり,ストレスを感じている人がいた.昔通に考えれば,ドアの音(A)が,その人を不愉快にさせている(C).しかし論理療法では,「ドアは静かに閉めるべきだ(B)」「係の人は管理をすべきだ(B)」という, 考え方(B)が要因(認知的ストレッサ―とよぶ)となってストレスを起こしている(C) ,と解釈する.

【出来事(A)→感情や結果(C)】ではなく,【出来事(A)→受けとめ方・考え方(B)→感情・結果(c)】という流れで,悩みやストレスを生む(C)としている.

では、どうしたらこのストレス(C)を解消できるのか.それにはまず(B)の「ドアは静かに閉めるべき」「係の人は管理すべき」という捉え方・考え方を合理的考え方に変える必要がある.「ドアは静かに閉めるに越したことはないが,大勢なので徹底することは無理だ」「係の人が気づいて直しておくに越したことはないが,まだ気がついていないのかもしれない」というように,非合理的思い込みに反駁を加えていく(D).すると,イライラした感情は次第に落ち着き,「係の人に知らせて調整してもらおう」など,行動にも変化が起き,効果を得ることができる(E).

最初はABC埋論から出発した論理療法であるが,現在は「論破(D)」と行動変容をした後の効果(E)を加えて,ABCDE理論となっている(表1).

表1 エリスのA8CDE理論
A (Activating event) ものごとを引き起こすような出来事
B (Belief) 信念,考え方,価値観,固定観念
C (Consequence) 結果,感情・問題,悩み,症状
D (Dispute) Bを論破,反駁する
E (Effect) 効果を生む新しい考え

2 10のイラショナル・ビリーフ

自分の非合理的思い込みを論破して合理的考えに変化させ,新たな行動を起こすためには,表2の一覧表を参考にするとよい.

表2 イラショナル・ビリーフ(固定観念・思い込み・非合理的な考え方)
  1. 受容要求(愛情欲求・承認欲求):「自分が大切だと思うすべての人から,愛され,受け入れられるべきである」と思い込む.
  2. 失敗恐怖(完壁主義):「自分は有能で適性があリ素晴らしい業績をあげて当然である.失敗をしてはいけない」と思い込む.
  3. 非難(非難することの非論理性と非妥当性): 「誰かが自分に不快や不正を加えた場合,断固としてその人を非難・問責してもよい.人を傷つけるような人は,責められて当然である」と思い込む.
  4. 欲求不満:「すべてのことが自介の思い通りにならない時は,致命的であり悲劇的である」と思い込む.
  5. 憂うつ(感情に捕らわれることの非論理性):「精神的な苦痛は,外部の強い影響で生じるから,自分の力では感情を制御して望む方向に変えることはできない」と思い込む.
  6. 不安(不安と恐怖):「危険や恐怖を感じたら不安におちいるのは当然であリ,それをコントロールすることはできない」と思い込む.
  7. 怠惰(問題回避の非論理性):「生きがいのある人生に向けて自己修練を積むのは大変だ.だから障害物や責任のある仕事はできるだけ避けた方が安心していられる」と思い込む.
  8. 偏見の生育暦(過去重視の非論理性):「過去の出来事や影響は消せない.今に至ってもその人の感情や行動を決定する」と思い込む.
  9. 現実拒否(現実拒否の非論理性):「何ごとも現在より良くなるべきだ.冷酷な現実に対して解決策が見つからなかったら恐ろしいことだ」と思い込む.
  10. 受動的な生き方(受動的態度の非論理性):「何もしなくてよい状態,受動的に楽しむことごそ最上の幸福である」と思い込む.

最初の例で考えてみる.

・苦手意識をもつ同僚に対して,なぜ「一緒に働くことはできない」と考えてしまうのか.それは,表2の【1.愛情欲求】で解釈することができる.「同僚には好感をもたれ,受け入れられなければならない」と考えるから,好感をもたれていない苦手な相手とは一緒に働くことができない,と思ってしまう.

「好感をもたれるに越したことはないが,お互いに好き嫌いはある.嫌いだからといって仕事ができないことはない」と論破(D)すれば,「苦手な人と仕事をするのは,自分にとっては成長のチャンスになる」と,合理的な考えに立ち,行動変容を起こすことができる.

その結果,関係が良くなる効果(E)が期待できる.

・仕事でミスをした時,「致命的だ」と考えてしまう根底には,【2.失敗恐怖(完璧主義)】の“人は有能で完全を期すべきで失敗をしてはならない”というイラショナル・ビリーフがある.

この思い込みに気づき,「人生に完璧はありえない,少々のミスは挽回できる」と論破(D)すれば,「挽回のための行動」を起こし,実際に挽回ができるという効果(E)が期待できる.

3 自分のケースでシート学習

このスキルは,シートを使い,それに記入しながら身につけていく.

まず,ストレスを感じた各自の出来事(A)と感情・結果(C)を書き出し,次にシートを使って非合理的思い込み(B) を記入し,気づいた非合理性を論破(D)する.そしてどのような行動の変容をすれば効果(E)が予想されるかを書く.

この作業は1人でもグループでもできるが,お互いのシートを持ち寄り,グループワークをすると対応スキルを身につけることができる.数をこなしていくと,ストレスは誰かが起こしているのではなく,自分が,自分自身の「受け止め方・考え方」によって起こしていることが明確になってくる.

「自己認知的ストレス」は,自己認知の仕方でストレスにもなるが,こうして,修正もまた可能なのである.また,シートを記入していくと,長年親しんできた考え方が非合理的思い込みであると気づくことも多々あり,そこにメスを人れるのはつらい作業となる.

しかし,自ら検証作業をすることが,スキルを身につけるためには不可欠となる.検証作業を通して「考え方が変われば感情が変わり,感情が変われば行動が変わる」ことを実感してほしい.

「アサーション・トレーニング」を活用したストレス対応スキル

ストレス対応スキルの2つ目は「アサーション・トレーニング」である.「アサーション・トレーニング」は,人間関係の構築や修復,コミュニケーション向上を目的としたトレーニング法として効果性が高く汎用範囲が広い.しかし,筆者はストレス対応スキルとして,特に高い効果性が発揮される優れたトレーニング法と考える.

1 ノン・アサーティブ(非主張的・受身的)行動によるストレス

先のアンケートで,ストレスの原因の第1位は「人間関係」であった.研修現場で参加者に「人間関係でトラブルがあった時,どうしているのか」を聞いてみると,葛藤を回避するために自己表現をしない,必要なNOが言えない,誰かに従ってしまうことが多い,最低限必要なことはするがそれ以外は余計な関わりをもたないなど,消極的な態度の人が圧倒的であった.

「アサーション・トレーニングでは,これをノン・アサーティブ行動(非主張的・受身的態度)という.相手を優先して自分は我慢をし,ひたすらもめないように努力する自己表現方法である.

最近実施した師長/副師長を対象としたリーダーシップ研修でも「マナーや仕事のやり方で部下や後輩に注意をしたいが,逆ギレされるからつい我慢してしまう」と言う人が多く,驚いた.言いたいのに我慢をしているからストレスになる.指導職としての役割を果たしていないこともストレスになる.注意をしないから慢性的にマナーが良くならないし,仕事が進まない.こうしてますますストレスを感じながら過ごす.

ノン・アサーティブ行動は,このように次々にストレスとして蓄積されてしまう.

2 アグレッシブ(攻撃的)行動によるストレス

ノン・アサーティブ行動でストレスを溜めすぎ,我慢が限界を超えると,今度は一転して攻撃的な態度に出る.これをアグレッシブ(攻撃的)行動という.

ノン・アサーティブが相手優先なら,アグレッシブは自分優先である.必要以上に言いすぎる,相手の話を聴かない,慇懃無礼,,一段高いところからみて相手をやっつける.エスカレートすると,厳しい指導という名のいじめ,無視,皮肉,嘘,強制的・操作的に相手を動かす,など,笑顔の中にもアグレッシブ行動は存在している.

アグレッシブ行動は,一見ストレスを発散しているようにみえるが,逆に自分自身にも高いストレスをかけることになる.なぜかというと,アグレッシブ行動というのは自分に不正直な態度を表現していることが多いからである.

たとえば,「夜勤を代わってほしい」と率直にお願いすればよいのに,断られた時に自分が傷つくことを恐れて「上からの命令だから」と言ってみたり,「あなたはやってくれる人よね」など巧みに操作してしまう.また,薬を拒む患者さんに対して,「なかなか治りませんよ」と冷たい態度をとる.本当はきちんと飲んで治してほしいと思っているのに,不正直につい高圧的なコミュニケーションをとってしまう.さらに,自分のミスを謝らないばかりか後輩に責任を転嫁する先輩は,仕事に自信がなく,周りの信頼を失いたくないと思っている.それを正直に言えないでストレスを溜めている人なのである.

3 「ノン・アサーティブとアグレッシブ」の組み合わせによるストレスと連鎖

『沈黙から発言へ』の著者である医療ジャーナリストのゴードンは,看護師を<沈黙の集団>とよび,冒頭「ナースにはコミュニケーションの技術を使うのを嫌う傾向があると考えられる」と記している.つまり,看護師はノン・アサーティブ傾向が強くコミュニケーションを積極的にとろうとしない,というのだ.それは,長い間,医師の権力が絶対的でアグレッシブな医師が多かったため,看護師は非主張的・受身的にならざるをえなかった,という背景があるからだという.

研修でこの話に触れると,ほとんどの参加者は「それは今もあります」と言う.さらに,これは「医師と看護師」に限ったことではなく,「看護部長と師長」「師長と看護師」「先輩看護師と後輩看護師」などの上下関係にもあるという.

アグレッシブタイプの上位者とノン・アサーティブタイプの下位者の組み合わせは,一見するとうまくいっているようで,実は下位者に相当な負担やストレスを強いている.下位者のストレスは,ときにアグレッシブ行動として吹き出し,ストレスの連鎖が始まる.医師に対して我慢している師長のストレスは,知らずに主任へのアグレッシブな指示となる.これをノン・アサーティブで受けた主任は,後輩への指導がアグレッシブになる.

こうした,ノン・アサーティブで受けてアグレッシブに出す,という連鎖が患者にまで及ぶ場合は,「CS(患者満足)・サービス・マナー」の問題に発展する.

4 ストレスに対応するスキル

では,ノン・アサーティブ行動/アグレッシブ行動に伴うストレスを,緩和・解消するためにはどうしたらよいのだろうか.

それは,アサーション・トレーニングの3つ目の自己表現,アサーティブ(自他尊重)が最適である.アサーティブ行動とは,相手も自分も大切にする自己表現である.ノン・アサーティブとアグレッシブの中間とイメージすればよい.アサーティブ行動は相手をねじ伏せたり,またこちらが遠慮して引き下がることをしない.言いたいことがあればきちんと言うが,相手への配慮は忘れない.苦手な相手や対立場面でも,プロセスを大事にして率直に対応するフェアで温かな自己表現である.

このようなざっくばらんなコミュニケーションは,普段の生活や仕事でも実践しているので特別なことではない.しかし,何かの拍子に相手がノン・アサーティブあるいはアグレッシブに豹変した時,それでもアサーティブな対応を続けることができているだろうか.アサーション・トレーニングは,この時のためにある.相手がアグレッシブに関わってきても巻き込まれないように注意し,アサーティブ行動に徹する.ノン・アサーティブな相手にも,こちらはアサーティブ行動で歩み寄る.これがコンスタントにできるようになることがトレーニングのゴールである.

さて,相手の変化にどのように対応すればよいか.アサーティブ行動を続けるためには,前述の「論理療法」活用する.相手のアグレッシブ/ノン・アサーティブな言動(A:出来事)に対して,合理的な捉え方・考え方(B)で受けとめる.そうすれば,おのずとストレス(C)は最小限に抑えられ,結果・行動(C) もアサーティブになる.苦手な相手や葛藤場面では,揺さぶりをかけられる可能性が高いが,結果を急がずプロセスがアサーティブになるよう心がけ粘り強く関わる.そうしてアサーティブ行動を重ねていくと,相手に変化が起きる.それは,決して強制や操作をしたからではない.こちらのアサーティブ行動が相手に影響を与え徐々にアサーティブな対応に変わってきたのである.その時,両者のストレスも消えている.これが本当のゴールとなる.

ただし,どんなにアサーティブに関わったとしても,相手によっては通じないこともある.アサーション・トレーニングでおちいりやすい失敗は,自分が変われば相手も変わるはず」「変わらないのは自分がアサーティブではないからだ」,という非合理的思い込みにある.その点は注意が必要である.

引用文献

  • A・ヱリス,R・A・ハーパー 著(國分康孝,伊藤順康 訳) :論理療法,川島書店,1981
  • バーニス・プレッシュ,スザンヌ・ゴードン:沈駄から発言へ,p.2,日本看護協会出版会,2002

参害文献

  • 平木典子:アサーション・トレーニング,金子書房, 2004

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