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労政新聞1995年10月27日『人事部に「女性キャリア開発担当」を設置、キャリア開発研修など5項目を展開』

キリンビールは、平成4年11月、人事部内に「女性キャリア開発担当」を設置、(1)支援制度の整備、(2)職域拡大、(3)意識改革、(4)ライフプラン支援プログラムの企画、(5)女性キャリア開発研修実施の5項目に取り組んでいる。女性の長期勤続志向が高まるなか、企業力アップのためにも、女性の能力発揮が重要と考えで始めたもの。

このうち研修は、平成5年から希望者の自主参加方式で実施している。ねらいは「意欲ある女性に、具体的な目標設定を考える機会を与え、職場で必要な人材となるための姿勢を教える」こと。外部から専門の講師を招き、1泊2日ないし2泊3日で行う。体験学習的な内容が好評で、希望者は年々増え、今年は60人が参加している。

人事部では、結果はすぐに現れるものではないとしつつも、リーダー格の育成にポイントを置くことで職場での効果を期待している。

1.女性キャリア開発研修実施の背景

女性の長期勤続志向に対応し、能力発揮のための環境整備を図る。

同社では、平成4年から女性のキャリア開発にに取り組んでいる。これには次のような背景がある。一つには、女性の長期勤続志向が高まっている昨今、いつまでも「女性は補助業務」という位置付けはなじまず、低成長時代に企業力をアップさせるためにも、女性の能力発揮が求められること。二つには、マクロ的にみて今後は労働力の不足が予測されることから、女性にフル活用する体制を整えておく必要があること。また、同社が人事の基本理念に掲げる「個」の尊重、能力主義といった観点からも、やる気のある人にチャンスを与え、頑張った人は大いに評価する必要がある。

そして、同年3月、本社と東京支店の女性社員500人を対象にアンケート調査を実施した結果、次の諸点が明らかになった。

  1. 「今以上に責任ある仕事をやってみたい」人は7割、「やりたくない人」3割で、意欲のある人が多い。経営職を目指す女性も1割いる。
  2. 一方、「自分の能力が発揮できている」と思う人は4割で、能力発揮において満足度が低い。
  3. 会社に望ことは、1位「就業援助制度の導入・拡大」、2位「教育研修の実施」、3位「意見を取り上げる制度の充実」「経営職・男性職・男性社員の意識啓発」である。

また、併せて男性管理職の意見も聴衆した結果、「別図」のように、現状の問題点は、男性・女性双方に原因があり、”マイナスの相乗効果” を生み出していることが分かった。このままでは、やる気ある女性社員が埋没し、組織もマンネリで活力が失われてしまう。

そこで同社では、平成4年11月、人事部の中に「女性キャリア開発担当」を設置した。目的は、「仕事に対し意欲ある積極的な女性社員に対して、その能力を十分に発揮するチャンスを与え、その成果を正しく評価する土壌を作っていく」ことである。メンバーは、リーダーである人事部事業所支援担当・部長補佐の西村慶介氏をはじめ、女性5人の計6人。日常業務で、具体的に次の5項目に取り組むことになった。

  1. 支援制度の準備
  2. 職域拡大への取り組み
  3. 意識改革
  4. ライフプラン支援プログラムの企画・実施
  5. 女性のキャリア開発研修の企画・実施

以下では、5.で挙げられた「女性のキャリア開発研修」を中心にみていこう。

2.研修の概要

具体的な目標設定を考え、“職場で必要な人材” となるための姿勢を学ぶ

目的
同研修は、マナー研修や、業務知識などの専門教育といった性格のものではない。「自分作りとキャリア開発」がテーマで、長期勤続に対応したプロ意識と目標意識の確立をねらっている。
対象者
当社は、本社と東京支社の女性社員を対象に実施した。しかし、後述のように、研修の評判がいいことから、全国の女性社員に対象を広げている。年齢・職種・キャリアは問わない。
参加
「意欲ある積極的な女性社員」のための研修であるため自主参加方式を採っている。全員に受講させても、受け手のニーズがなければ成果は期待できないからである。募集は毎年1回行い、本人が直接人事部に応募することとしている。スタート当初は各部門の職制にも研修をアピールし、目標管理面接などでやる気のある者に研修を進めてもらうこととしたが、現在は、参加者本人が手配し、職場の調整も行うこととしている。なお、1回の定員は10〜15人程度。開催は、初年度の平成5年は1回であったが、その後応募者が増え、6年・7年は各3回ずつ開催している。7年の参加人数は計60人である。
講師
研修は外部に依頼している。さまざまな教育の専門家に同社の目指す研修のイメージを提示し、プログラムを用意してもらった結果、(株)近藤教育企画の近藤成子氏に依頼することとした。同氏は、長年大手損保会社の人事部に在籍した後、教育の専門家として独立したベテランで、本人の ”気付き”を重視した参加型の研修を行う。
研修の内容
研修の日程は、2泊3日。過去に1泊2日で行ったこともあったが、研修が好評なこともあり、今年から1日増やされている。研修会期間は出張扱いとしている。研修の内容は大きく「自分作り」と「キャリア開発」からなる。つまり、まず、”自分がありたい目標” を明確にもってもらい、”その実現のために何を努力すべきか、日常どうあるべきか” を学び、職場での実践につなげようというものである。

以下、カリキュラムに沿ってポイントをみて行こう。

事前学習
まず、研修参加に先立って、[資料]のような「事前学習課題」が与えられる。あらかじめこのシートに各人が答えを用意し、研修中の実習において、自分自身を考え、発見する材料として活用する。
オリエンテーション
オリエンテーションでは、当研修の目的や進め方などを説明したあと、特に「創意の人が求められる理由を強調する。女性の仕事は、ルーティン・ワークが多いが、現状維持だけ行っていたのでは本人も組織も成長しない。職場において重要なのは、課題や問題点に対して、新しい創意・工夫を提出し、チャレンジすることである。創意の精神は、職場に新しい価値を生み出し、本人をも成長させる源であるといってよい。そこで、当研修のテーマである目標作りの原点として、「創意の人」なることの重要さを強調している。
人とのかかわり方と自我状態
ここでは、組織におけるコミュニケーションの重要性と、よいコミュニケーションの在り方を学ぶ。まず、自己紹介を兼ねて、各人が1分間スピーチを行う。そして、エゴグラムの記入を通して、自分の対人関係における傾向を知る。米国の精神科医デュセイにより考案された性格傾向分析法。自分の足りない点を伸ばすのに用いる。職場における女性は、どうしても自己主張を控え勝ちである。しかし、自分で何も主張せずに不満をため込み、会社や上司のせいにしていたのでは、自分も組織も成長しない。いい人間関係を作には、相手のせいにしないで、もう一歩踏み込んでいく姿勢が必要である。そのためには、言いにくい相手でも、言いにくいことでも、ざっくばらんに自己表現する姿勢を身に付けなければならない。
このために「アサーション・トレーニング」を行う。これは、コミュニケーションにおいて、

  • 自分<相手で、言いたいことがあっても言えない非主張的(ノン・アサーティブ)な関係
  • 自分>相手で、相手の立場を尊重せず、一方的に主張する攻撃的 (アグレッシブ)な関係

上記のいずれでもなく、

  • 自分も相手も大切にし、自分に正直に率直な自己表現をすると同時に、相手の表現も大切にして歩み寄るアサーティブな関係

を目指す必要がある。そして実習を行うが、こうしたトレーニングは、特に苦手な相手や葛藤場面において有効とされている。

目標設定と能力開発
当研修の中心をなす部分で、目標を持って仕事をすることの重要性と、同社の目標管理制度(目標によるマネジメント)の活用ポイントを学ぶ。まず、事前学習の 1.(自分の目標)、2.(今後、取り組みたい仕事と能力開発)、3.(職場の人からみた自分への要望)を使って、3分間スピーチを行い、フィードバックを行う。そして、各人が目標をしっかり立て、楽しくみんなと一緒にやっているかを確認してもらう。女性社員の中には、孤独感をもっているケースがままあるからである。キリンビールでは、目標管理制度を行っているが、女性社員の中には、「面倒くさい」「あきらめている」といった理由で、活用されていないことがある。しかし、目標を具体的に立て、挑戦し評価することなしに、キャリア・アップは図らない。能力開発をするもしないも自分次第であり、前向きに目標を設定すると自分自身も毎日が楽しいんだ、ということを分かってもらう必要がある。そして、今ある目標管理システムを有効に活用するための具体的ポイントを示す。例えば、目標設定は「頑張ってやりたい」というスローガン的なものではなく、「Aの業務を1日でできるようにしたい」「Bという仕事をすべて任せられるようになりたい」など具体的に書いてこそ生きてくる。また、こうした具体的な目標を発見するための指導も行う。
「職場に必要な人」と「職場の問題解決」
ここでは、職場に必要な人が「問題解決能力のある人」であることを学ぶ。どんな職場にも問題はあるし、絶えざる問題(課題)解決の連続こそ ”仕事”ということもできる。女性には「問題解決なんか関係ない」と思ってきた人もいるが、問題に積極的に取り組み解決する力をもち、リーダーシップを取れる人こそ、職場には求められる。こうした観点から、ア.表面化しない問題に気付き、イ.問題点を職場のメンバーに提示し、ウ.創意もって解決策を考え、エ.皆で解決すべくリーダーシップを取っていく…ことの重要さと具体的な方法を説く。そして、問題点に気付くためのものの見方から、実際に問題解決に向けた企画書の作成、プレゼンテーションまでを実習する。
長期勤続とキャリア開発
これまでの各学習項目を総合し、会社での日常的な在り方を学ぶ。
まず、ディベート・ゲームを通して、自分の意見を主張し、かつ、さまざまな人の立場から自分の意見を多角的に照らす見方を知ってもらう。まだ、長期勤続は、途中に出産・子育て(育児休業)を挟むなら、自分が抜けた職場では、だれかが代わりに兼務したり、別にアルバイトを雇ったり、さまざまな迷惑が掛かることも知ってもらう。このとき、迷惑が掛かっても帰って来てほしい人…単なる事務処理スタッフではなく問題解決能力のある人、職場の皆が支援したくなるような人……を目標としてイメージしてもらう。
そして、ディベートを行ったり、多角的なものの見方を知ることから、”学びの姿勢” を分かってもらう。本人の姿勢次第で、後輩からも、嫌なことからも、日常のほんのささいなことからさえ、さまざまなことが学べる。そのことに気付き、日々の絶えざる”学び” の連続こそが、能力開発なのだということを知ってもらう。

3.評判と人事部の評価

体験学習的な内容が好評

同研修は、スピーチ実習や、シート学習、ブレーン・ストーミング、ディベート・ゲームなど体験学習的な要素があり、受講者の評判はよい。また、積極的な者、優秀な者が集まっているだけに、参加者が互いに刺激される部分も少なくないようである。受講後に行うアンケートの結果も好評で、このため、当初、東京地区だけの研修であったものが、全国から参加を認めるようになり、希望者も増加している。「能力ある女性に、具体的な目標設定を考える機会を与え、”職場で必要な人材” となるための姿勢を教える」という点ではねらいを満たした研修であるというのが人事部の見方だ。「ただし、結果がすぐ目に見えて現れるものではありません」女性キャリア開発担当リーダーの西村氏は語る。「参加した女性は、いくつかの糧をつかんで、その後の会社生活を送っていると思いますが、変化が見えるまでには、まだ時間が掛かるでしょう。また、1回研修をすればいいというものでもないので、今後、フォローアップ研修の実施も考えています。」

4.他の女性活性化の取り組み

4つのアプローチで女性の能力を発揮を促す

なお、女性キャリア開発担当が行う研修以外の項目にも簡単に触れておこう。

支援制度の整備
女性社員の継続勤務支援については、育児休業のほか介護休業を導入し、社内報で活用事例を紹介するなどして、利用を進めている。
職域拡大への取り組み
各人の意識アップ、キャリアアップに合わせてランクアップした仕事ができるよう支援するする。最近は、女性も積極的に営業担当としているほか、マンネリから脱却するために、ローテーションを促進している。
意識改革
各部署の管理職に対して、女性社員を育成することが経営課題の一つであるとの意識作りを行う。具体的には、女性社員に対するキャリア開発面接の仕方や、仕事の与え方・しかり方を示したパンフレットを作成している。また、女性社員には、プロとしての自己認識を深め、キャリアプランをもてるよう「キャリア開発申告票を書くにあたって」と題するパンフレットを作成。キャリアプラン、ライフプランをもつことを促している。
ライフプラン支援プログラムの企画・実施
女性社員がプロの仕事として自立し、仕事と家庭の両立を図るためのライフプラン作りを支援する。また、自分が育児休業に入ったとき、仕事を代わってくれる人の気持ちを配慮することなど、長期勤続して家庭と両立するためのノウハウを示す。同社では、意欲ある人材に対する研修だけでなく、こうした総合的なアプローチによて、一歩一歩、変革を図っていきたいとしている。

5.制度導入検討企業へのアドバイス

リーダー格の育成にポイントを置く

前出の西村氏は語る。「こうした研修を行っても、早期に効果を期待するのは難しいものです。特に女性社員全体のレベルを上げるには、蓄積と時間が必要です。そこで当社では、意欲のある核になる人から研修を始め、リーダー格の育成にポイントを置きました。この方が、実効性は高いと思います。また、問題は一気に解決するものではなく、女性をめぐる社会慣行や企業風土による影響も大きいものです。何か大型プランで会社を変えるということは難しいので、地道に継続姿勢が大切でしょう。」

(出典:『労政新聞』1995年10月27日)

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