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共済と保険 2009年7月号『婚活時代のキャリア開発とコミュニケーションマナー』

婚活とキャリア開発

「婚活・コンカツ」とは結婚するための活動のことだそうで、「パラサイト・シングル」「格差社会」などの言葉を世に送った家族社会学者の山田昌弘さんと少子化ジャーナリストの白河桃子さんによる『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)で使われたのが最初と聞きます。学生たちに定着した「就活・シューカツ(就職活動)」の姉妹語といったところでしょうか。

昔も今も女性の結婚への憧れには変わりはないので、「婚活」自体は今に始まったことではないのですが、最近「若手女性社員のキャリア開発研修」などで見聞きする若年層の女性社員たちの婚活は、ちょっと様子が違います。彼女たちがめざすのは、結婚してもキ
ャリアを積みながら長く働きたいとしてきた均等法世代の先輩たちとは一線を画し、結婚を永久就職と言っていた時代と同様の、「結婚=専業主婦」をゴールとする婚活なのです。

遡れば、1985年の男女雇用機会均等法施行は、女性社員の高学歴化の扉を大きく開くきっかけとなりました。続々と優秀な女性が入社し活躍するにつれ、企業は少しずつ「女性を活用する時代なのだ」と認識し、仕事を続けさせるための制度を整備し、キャリア開発のための研修まで用意するようになりました。女性たちの働く選択肢は増え、キャリア開発もすすんでいたのです。しかしここ数年、結婚したら仕事をやめて家庭に入りたい、共働きはイヤという女性が増えています。

なぜ、そう考えるようになったのでしょうか。

あるキャリア開発研修の中で、ヒントになるやり取りがありました。手が放せないときに上司から緊急の仕事を頼まれた。そのときどのように対応するか。断る場合はどのような言い方があるか、という内容でコミュニケーションの演習をしているとき、一人の参加者が慨然として「今の私たちには、『断る』という選択肢はありません」と言ったのです。

「出来ないときもあるでしょう。なぜ、そんなに無理をするの?」と聞いてみると、別の参加者が手を上げて「評価が低くなるからです」と真顔で言います。他の参加者も小さくうなずきます。

たまたまオブザーブをしていた人事の担当者と研修の担当者が顔を見合わせ「うちの成果主義、間違っていたのか?」とショックを受けていましたが、これは、成果主義の導入意図が上司と部下に正確に伝わっていないために起きた誤解か、職場でうまく機能していないために起きた行き違いでしょう。

成果主義は、最終的には人的コストの削減が目的なので、人は減って仕事が増えます。これが大きな特徴です。

独身女性の場合、同僚の産休や育休の肩代わりまでしなければならないことが多く人間関係にも神経を使います。さらに彼女たちを追いつめているのは、年々システムが複雑になり新しい知識と高い専門性が求められていることです。勉強をしないとミスが出る。ミスをすれば厳しい評価が待っている。

こうした「きつい仕事と評価の厳しさ」が日常化すると、働かなくてもよい専業主婦になりたいと願うのは、むしろ自然のことかもしれません。図表1の女性社員の内容は、上司の期待に対して意欲のレベルが低く長期的な視点に欠け抽象的で消極的な感じを受けます。

図表1 長所・改善点・今後への期待など
上司記入欄 参加者(本人)記入欄
あなたは一般職としての専門性は十分発揮してもらっている。今後はさらに役割を広げてもらいたいので、半年以内に○○の資格を取って欲しい。また、堪能な語学力を活かして新しい分野を切り開いて欲しいので、近々総合職に推薦したいと考えている。 これからは今の仕事をしっかりやってつまらないミスをしないこと。後輩指導などはもう少しやってもよいかと思う。
【上司の記入を見ての感想】
私にはそんな力はないと思います。今のままで十分満足しています。責任が重くなるのは困ります。
明るくみんなに公平に接して信頼性も高くリーダーシップがよくとれている。やりたい業務や仕事・役割があれば、どんどん申し出るなど、積極性が欲しい。○○の仕事は、首都圏だけにとどめず近畿圏にまで広げたいので、来期までに業務スタッフの育成も含めてプロジェクトを立ち上げてもらいたい。 知識や顧客対応には自信がありますが、性格的にリーダーは向かないと思います。新しい仕事は緊張するので当分はこの状態で課の役に立てば満足です。
【上司の記入を見ての感想】
評価が高いのは嬉しいが、人を動かしたり、長期的な仕事は荷が重い。先輩たちもたくさんいらっしゃるので、振っていただきたいと思います。
業務に関して常に前向きで後輩の手本になっている。発想が豊かで、課内の人のやる気を誘うアイディアが素晴らしいが、身内で愉しんでいる感が否めない。今後は対外的な仕事を増やしてほしい。時には私を含む頭でっかちな男を巻き込んでもらいたい。新しいことをするのであれば、応援は惜しまないので、遠慮しないで申し出て欲しい。 チームの仕事が得意だと思っています。総合職の女性たちとの潤滑油にもなっていると思いますが、自分が総合職になるつもりはありません。後輩に指摘するのが下手なのですが、性格上できないのです。
【上司の記入を見ての感想】
対外的な仕事となると緊張するので、なるべく会社内で収まる仕事をしていたいと思っています。どうしてもやらなければならないとすると、プレッシャーがかかります。

長く仕事をするかどうか決めかねていることと、よい評価を受けたいという思いから、表現も中途半端になってしまうのでしょう。

しかし、職場では「女性社員に教育なんか必要なの?」と言っていた上司が、図表1のように、徐々にキャリア開発(改善点・今後への期待など)に関して適切で前向きなアドバイスが出来るような変化が起きていました。このレベルに達するまでには5~8年くらいかかっていると思いますが、女性蔑視や偏見が見られなくなっているのは管理者としての力がついた証拠だと言えるでしょう。

上司が本気で「うちの女性社員にキャリアを積ませ戦力として大事に育てたい」と思うようになった矢先に、今度は女性たちの腰が引け、キャリア開発に意欲的でなくなってしまった、という何とも皮肉な現象。あまりにももったいないと感じます。

問題は、女性社員たちが本当に結婚退職して専業主婦になりたいのか、ということです。結婚しても仕事を続けキャリア開発を継続したい、仕事の幅を広げたい、潜在能力を引き出したい、可能性を試したい、という気持ちがあるなら、今のきつい仕事や厳しいと感じる評価については、上司とじっくり話し合い、その上でキャリア開発プラン、ライフプランを再設計してチャレンジして欲しいのです。

そこで、次に、上司と部下がよい話し合いをするためのコミュニケーションスキル、<R-DESC法>を紹介します。これは、両者にとって良好な人間関係を築くスキルですし、キャリア開発を当事者同士がすすめるために、画期的な手法だと思います。

キャリア開発のためのコミュニケーションマナー

キャリア開発のためには、いろいろな人たちの協力や支援が必要です。昔から「ものは言いよう」と言いますが、こちらの言い方によって相手の対応が変わり、キャリア開発がすすむこともあれば、相手との関係をこじらせることもあります。ですから、言い方のスキルアップはキャリア開発をするときには必須能力となります。

そこで、ここでは「言い方・話し方」のスキルとして<R-DESC法>を紹介します。これは、『アサーション・トレーニング』平木典子著 金子書房 にある<DESC法(デスク法)>を原型としたものです。相手を傷つけず自分も傷つくことが少ないという特徴を持つコミュニケーションスキルです。

(1) どちらがよいコミュニケーション?

先輩が、昨日の会議を欠席しました。翌朝、後輩のA子さんとB子さんが先輩に声を掛けました。

A子
会うなり、冷たい表情で、「先輩、昨日の会議サボったでしょう」
B子
穏やかな表情でにこやかに「先輩、おはようございます」「昨日の会議、いらっしゃらなかったですね」

A子さんの言い方をすると、一気に敵対モードに入ってギクシャクしそうです。「サボったでしょう」は、今の言葉で言えば「上から目線」です。しかもサボったという判断はあくまでもA子さんの主観です。

先輩はカチンときて「べつにサボってないけど、なにか文句ある?…」といいたくなります。会議のことよりケンカが始まりそうです。

B子さんの言い方は、実にスムーズです。これは、<R-DESC法>を使っているためです。

B子さんのように、おだやかな表情できちんと挨拶をされて怒る人は滅多にいません。先輩もにこやかに挨拶を返すでしょう。これが、<R 関係づくり>です。コミュニケーションマナーとも言うべき大事なことです。

つづいて「会議にいらっしゃらなかったですね」。これが<D 客観描写>のステップです。客観的に事実を言われたので、先輩は感情的にはならないでしょう(もちろん、意地の悪い独特の節回しや態敷無礼に言ったらダメですが)。

こじれるケースは、この<D 客観描写>が出来ていないことが原因と言っても言い過ぎではありません。

つまり、「サボったでしょう」と言わずに「いらっしゃらなかったですね」と言えば会話が続くのです。

会話を続けることで、B子さんの目的である「先輩に次の会議に来て参考になる意見を聞かせて欲しい、会議自体の活性化をはかって欲しい」ということが伝わり、次回は準備をして来てくれる、という約束まで取り付けることができました。

言い方によって、問題解決を早めるのか、こじれさせるのか。両極もあるのです。

(2) R-DESC法

R-DESC法は、言いにくいときや揉めそうなときに、あらかじめ会話の予測を書き準備をしておくものです。実際には図表2のようにはならなくても、シートを準備しておくことで心の準備もできますので不安が減ります。展開によって柔軟な対応がしやすくなる効果もあります。

図表2 R-DESC法の例
後輩Bの言い方 こう言われて、先輩の対応は?(予測)
R 関係づくり ①にこやかに穏やかな表情で「おはようございます」 ②「おはよう」
D 客観描写 ③「○○さん、昨日の会議にいらっしゃらなかったですね」 ④そうなんだ。急な仕事が入ってね。結局間に合わなかったよ。
E 気持ちの表現 ⑤「先輩の貴重な経験や意見が伺えないで残念でしたよ。私、すごく期待していたので」 ⑥えーっ、嬉しいね。そんなに期待されていたなんて。
S 提案 ⑦「お忙しいでしょうけど、是非次回はいらしてくださいませんか」 ⑧もちろん、必ず参加するよ。
C 結果 ⑨「先輩の参加で、もう少し会議が動くと思うのです。みんなも先輩の意見を参考にしたいと思っていますよ」 ⑩じゃあ、昨日の議事録をよく見て、準備して行くね。少しでも参考になるようにしたいからね。有り難う。

(注)アサーション・トレーニングでは、D←E←S←Cの流れを使ってDESC法(デスク法)と呼びますが、Dの前にRを入れることで、相手とのよい関係ができ、話がしやすくなるので、筆者は、最初にRを入れ、R-DESC法として研修をしています。

R:相手との関係づくり…Relation(やわらかな表情・挨拶など)

D:状況や相手の言動を、客観的に描写する…Describe

E:「自分の言いたいこと」「気持ち」をきちんと把握し、明確にし、表現する…Express

S:特定の提案をする…Specify(相手、または自分の言動の変化についての提案)

C:提案が実行されたとき、あるいは実行されないときの結果、成り行きについて述べる…Consequence

R-DESC法を使ってキャリア開発の支援を仰ぐ

最近開催する弊社の「キャリア開発研修」では、どの回も最後のプログラムに、R-DESCシート記入を取り入れています。

職場に戻って上司に「今後に向けてのキャリア支援」の依頼をするとき、躊躇や遠慮をせず、また権利意識だけが先行しないように、リハーサルを兼ねての準備です。

図表1のA子さんのケースで考えると、次のようになります。

A子さんは、研修中いろいろ考えた結果、今後のキャリア開発のひとつとして、上司のアドバイスにもある「○○の資格取得」にチャレンジすることにしました。

研修では、図表3のシートを参考に、自分のケースの準備シートを作成します。そして、それを使って演習を行います。

いつも驚くのは、R(関係づくり)の部分です。演習なので上司役は他の参加者が担当しますが、演技とは言え、きちんと挨拶し、真剣にアポイントメントをとられると、上司役の人は自然に好意的になるようです。あとでインタビューしてみると、異口同音に、身近な上司であっても礼を尽くすことの重要性を再認識するようです。

DESCの段階でも、エネルギーが感じられます。上司役の人には、「勉強なのだから、話の分かるいわゆるイイ上司にならないように」と言っておくのですが、DESCがすすむにつれ、自然に上司からの質問やダメ出しがあったりしてやり取りが活発になります。そして、一緒にキャリア開発をすすめる方向性での会話となっていきます。もちろん提案の却下もありますが、それはそれで気づきがあるので相手役に感謝しているようです。

R-DESC法は、苦手な女性社員を部下にもつ上司にも大変有効なコミュニケーションスキルです。是非、お試しいただけたらと思います。

最後に余談ですが、先週のこと。R-DESC法を学んだ参加者がこんな感想を話していました。「今回初めてR-DESC法を知ったのですが、準備シートを書きながら、中学時代に知っていたら、好きな男の子にコクる(告白)とき、役にたったのになあと思いました」

そうです。冗談ではなく、このR-DESC法は、婚活でも十分に力を発揮します。女性社員が結婚対象とする男性たちは最近は「草食男子」と呼ばれるそうです。「恋愛に積極的ではないイケメン独身男性、自分からは女性に声をかけず誘わず告白もしない、女性からアプローチしてもらうのを待つ」のが特徴だそうです。

ある女性雑誌に、草食男子と付き合うためのアドバイスとして、「待つな!とにかく行動あるのみ!」とありました。そうなるとR-DESC法は、ピッタリではないでしょうか。お薦めします。

図表3 R-DESC法を使ったキャリア開発の支援
A子 上司の対応は(予測)
R 関係づくり ①にこやかに穏やかな表情で「課長、○○資格についてお願いがあるのですが、お時間いただけますか」
③「有り難うございます。では、5時ごろもう一度伺います」
⑤(5時になって、)「課長、今朝お願いしました○○資格の件ですが、お時間よろしいでしょうか」
②「あ、そうか。今から出掛けるからすぐは無理だけど、夕方ならいいよ」
④「はい、じゃあそうしてね」
⑥「はい、いいですよ」
D 客観描写 ⑦「さっそくですが、先月のキャリア研修のときに課長からすすめていただいた○○資格取得ですが、資格があれば直接お客様のところに伺ってご説明したり講習も出来ますので役割が広がります。是非チャレンジしてみようと思います」 ⑧「そうか、決めてくれたか。うちの部では女性で初めてになるけど、問題はないからね。すべて会社持ちでするから、早く申請書を出してね」
E気持ちの表現 ⑨「有り難うございます。ただ、この資格は難しいと聞いていますので、相当勉強をしなければならないと思います。皆さんにご迷惑をお掛けすることになるかも知れないのでそれが心配で、す。一度で受からなかったら、格好悪いし・・・・」 ⑩「なに言ってんの。チャレンジすることが嬉しいじゃないの。君なら大丈夫だよ」
S提案 ⑪「それでですが、△△資格試験には受験のための対策講座が別にあるそうで、そこでは模擬テストもしてくれるのです。本番は年末ですが、その講座は来月に2日問、名古屋であります。そこに参加したいのですが、いかがでしょうか。自費で休暇扱いで結構なのですが…」 ⑫「そうか、そういうシステムがあるのか」
C結果 ⑬「平日なので、仕事に支障が出ないように後輩にお願いしていきます。気が早いのですが、このことは後輩たちにも知ってもらって、次にチャレンジしてもらいたいと思っています。名古屋できちんと教えてもらうと、自分だけで勉強するより効果が上がると思いますし、受かる確率が高くなると思います」 ⑭「そうだね。たしかに君の言うとおりだ。ただ、休暇と自費の件はね、ちょっと考えさせてよ。部長に相談してみるけど、出張扱いに出来ないかなあ。対策講座の費用は全額は難しいと思うけど、どうかな」

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