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モットー3 カニの親子

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─ おとうさん、おとうさんが、まっすぐに歩いてみせてくだされば、ぼくたちもそうします ─

『かにの本・子どもを悪くする手引き』 ザルツマン著 村井実訳

これは、今から200年ほど前の1780年、クリスチャン・ゴットヒルフ・ザルツマン(1744~1811)によって書かれた『蟹の小本』の、とびら絵に添えられているイソップ物語の一節です。イソップは、紀元前6世紀頃ギリシャに実存した人物(ヘロドトス『歴史』)だそうですが、時を経て、ザルツマンが自身の本の扉に自らこの絵を描き、ラテン語で「おとうさん、おとうさんが、まっすぐに歩いてみせてくだされば、ぼくたちもそうします。」と記したことは、いつの時代も子育ての基本は、親が手本を示している、という事実にほかなりません。

そして、この本の副題は「子どもを悪くする手引き」ですから、これをマニュアルにして教育すれば、ドンドン悪い子が出来ることになります。「悪い手本を示す親が子どもに不徳を教えるすぐれた教師であることは、疑いもありません。」(本書P9より引用) しかし、昨今の家庭や学校や職場に溢れているさまざまな問題状況を考えるとき、副題を逆説的に捉えるというより、むしろそのままマニュアルとして使ってきたのではないかと思える程、すぐれた教師がはびこっているように感じます。

ザルツマンは、ドイツのシュネッペンタールにある有名な学校の創始者であり、当時あの有名なペスタロッチと並んでヨーロッパの教育界に大きな影響を残した人です。ザルツマンがエルフルトという町に住んでいる時代に、多くの家庭における子どもたちの哀れなありさまを知り、その子どもたちにかわって世の親たちや教師に訴える「愛と嘆願の書」としてこの本を書いたそうです。初版の表題は『まことに不合理な最近流行の児童教育法への手引き』で、発行以来たちまちベストセラーになり、出版法規の確立していない当時のこと、欧州全土に偽版が続出しそれが今でも出版史上の語り草とされている、ということからも反響のすごさが窺えます。

日本には、明治37年獨協中学の創始者である大村仁太郎氏が、『我子の悪徳』という名で紹介したのが最初だそうです。そして昭和30年に『かにの本』として当時慶応大学の文学部教授村井実先生が出版されました。その後暫く絶版になっていたこの本は、再び多くの教育関係者の要望に応える形で昭和46年復刊されています。私は、玉川大学で学んでいるとき、山口先生(現在は教授かと思いますが)というまだ若い講師にこの本の存在を聞きました。授業は「教育学演習」か「教育哲学」だったかうろ覚えなのですが、大変印象に残っています。熱気溢れる20代の山口先生は、村井先生の直弟子とおっしゃっていましたが、何か村井先生の教育精神が乗り移っている感じさえ受けました。

さて、大げさに言えばイソップから脈々と繋がっているこの教育精神を、今後も大切にして大人の教育の仕事をしていきたいと思っています。

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