- 2010-04-04 (Sun) 22:03
- プログラム
新入社員の「3年3割問題」
四月は新入社員の季節です。ニュースは「リクルートスーツに身を包んだ新入社員が、期待と不安を胸に入社式を迎えました」と年度始めを伝えます。しかしこの不安、実は企業側にもあります。新入社員の「早期退職」の問題です。
厚生労働省で出している統計「新規学卒就職者の在籍期間別離職率の推移」によれば、3年以内に中卒者は7割辞める、高卒者は5割辞める、そして大卒者は3割が辞める、とあります。「七五三」と呼ばれる現象です。最近よく聞く「3年3割問題」。これは、「七五三」現象の「三」に着目した大卒者の早期退職の問題ですが、このところ3年のうち1年目が最も離職が高くなるという、超早期化に深刻度が増しています。在籍1年未満の退職となると、採用に掛かった費用はもちろん、導入育成費用、育成期間の人件費なども回収が出来ません。むしろ持ち出しでしょう。
就職も再就職も難しいという時代に、彼らはなぜこうあっさり辞めるのでしょう。企業もなぜ新入社員を職場に定着させることができないのでしょうか。ここでは、主に大卒の新入社員をイメージして、彼らを簡単に辞めさせないためにはどうしたらよいか、職場の受け入れとその後の教育について考えてみたいと思います。
不可解な辞め方と3つ目の退職理由
退職理由には大きく2つあると思います。
- 「○○をしたいから辞めます」
- 「××をしたくないから辞めます」
また、「××をしたくない」の××とは、「外回り」「残業」「雑用」、それとも「失敗」か。「早起き」「宴会」というのもあるかも知れません。しかし、辛く長い就職活動の末、やっと働き始めたというのに、なぜこんなに早く降りてしまうのか理解に苦しみます。
そして辞め方。これもまた不可解です。
- メールで『辞めさせていただきます』と書いてきて、次の日から出社してこない。
- 突然退職を申し出る。上司が事情を聞いても話には乗らず、2〜3日後に辞める。
- 送別会を予定しても辞退する。全員にきちんと挨拶をしないで辞める。
- ボーナスが出る日を退職日と決めている。すでにその手続きは済ませている。
- たびたび休むのでおかしいと思っていたら、有給を使い切った時点で退職した。
そんなことを考えているとき、ある人事担当者の方から興味深い話を伺いました。「消えるように辞めていく人に共通するのは、自分から職場に溶け込もうとしないことです。そのくせ、退職を決めたあとで『(職場に)話が出来る人がいなかった』とか『相談する人がいなかった』と言う。まわりに対して申し訳ないとか心苦しいと思っていませんよ。だから平気でああいう辞め方が出来るんです」「今後のことを考えると、早いうちに辞めてもらってホッとしています」。
何度も面接し選びに選んで採用を決めたのに‥‥という悔しさと苛立ちを感じますが、冷たく突き放しているという印象も拭えません。ドキッとしたのは『(職場に)話が出来る人がいなかった』『相談する人がいなかった』という部分です。本当に話が出来る人、相談が出来る人がひとりもいなかったのでしょうか。それが退職を決めた理由なのでしょうか。実は、成果主義導入以来、職場のコミュニケーションが荒れ続けている、と気になっています。みんな自分のことで精一杯なため、コミュニケーションをとらなくなっている。かかわりの量が減り質も悪くなっている。新入社員がその犠牲になっているとすれば、大きな問題です。
退職を決意した心の内を代弁してみます。職場に溶け込むためには「自分から積極的にかかわるコミュニケーションスキル」が必要だけど、自分にはその力がないのでうまく溶け込めなかった。その結果、やる気がないとかわがままだとか誤解されるようになった。自分では誤解を解くこともできないので辞める選択しかなかった。もし、そばに気楽に話せる人や相談出来る人がいたら、どんなに助かったかわからない。きっとコミュニケーションの機会が多くなって、仕事をもっと早く覚えたと思うし、職場にも溶け込めたと思う。そして、多分、辞めなかったと思う。
これまで、退職した理由は、辞めた新入社員自身にあると思い込んでいましたが、そうではないかもしれません。荒れた職場が新入社員の育成を阻み、退職を決意させた。こう考えると、第3の退職理由はにわかに信憑性が高くなります。
若手の研修会で「3年3割」予備軍を見た!
最近の若手社員の研修会。参加者の態度で気になることがあります。たとえば、グループ討議の場面で。ひとりだけ椅子をちょっと下げ、手を組み、視線を落とし話に加わらない。声が極端に小さく抑揚がない。表情が堅い、他のメンバーが話を振ってもはっきり答えない。この行動は次の選択肢でいうとどれだと思いますか?
- やる気がない
- わがまま
- 反抗している
- 人見知り
どれも可能性はありますが、「人見知り」の行動と考えてよいでしょう。人見知りの人というのは、初対面の相手に自分から挨拶をするとか、声をかけて人間関係を築くというスキルや基本的マナーが身についていません。しかし、グループに入らなければならないときは、まるで母親のスカートの陰に隠れている「子ども」のような行動をとるのです。黙って下を向いていれば、誰かが気づいて声を掛けてくれる、気遣ってくれる、助けてくれる。これが、幼い頃から獲得してきた誰かと馴染むための独特のやり方です。
こういう人がいると他のグループメンバーはやりにくいものですが、面倒見のよい人やコミュニケーションスキルの高い人はどの研修会にもいて、こちらが指示しなくても随時カバーしてくれます。何回かグループ替えをしていくうちに、人見知り君もいつの間にか円の中に入り、姿勢が良くなり、視線が上がり、他メンバーと話が出来るようになります。
講師たるもの、そんなことでよいのか。明らかに甘やかしている。教育の場なのだから厳しく指摘すべきではないか。ご意見はさまざまあると思います。しかし、人見知りの人にいきなり「挨拶をしっかり」とか、「もっと声を張って」「社会人らしい態度で」などと言ったら、彼らは、たちまち貝のように黙り込み、学ぶことなく研修は終わってしまいます。講師は「人見知り」らしき参加者がいる場合、他の参加者の支援を得て馴染ませ、ドロップアウトさせないことが重要な仕事になります。
ちなみに「やる気がない人」というのは、嘘をついてでも不参加を決め込むものです。研修に参加している以上やる気はあると見るべきでしょう。また「わがままな人」は、手ではなく腕を組み足も組みます。態度が大きいのが特徴です。
「反抗的な人」は、攻撃的口調はもちろんのこと、必要以上に音を立てる、投げるように荷物を置くなど、どこか行動が荒い。反面、指示に対しわざと間違える、陰のリーダーとなって進行を妨げるなど、目立たぬように研修全体へのマイナス影響を画策します。
ところで、早期退職者の中には、「人見知り」タイプの人がかなり含まれていると思います。しかし、職場の人たちは彼らの行動の意味がわからず、マナーが悪い、わがまま、変人として接し、そのうち「やる気がない」「反抗的だ」と決めつけ、厳しい態度に出るかまったく相手にしなくなる。自分発のコミュニケーションが不得意な彼らにしてみれば、お手上げです。これまた消えるように去っていくしかない。
そうならないために、研修でカバーしてくれた人のような役割を果たす人が職場にいてほしい。イソップ童話「北風と太陽」の太陽のような人がそばにいて欲しい。しかし、気になるのは、やはり「北風先輩」ばかりの荒れた職場です。「3年3割問題」をすすめてしまうのではないか、心配になります。
教育システムが新入社員を守る
限りなく実話に近いQ&Aです。業界№1のA社、№2のB社。2社から内定をもらった10人の学生のうち8人が、迷わず№2のB社に就職を決めました。さあ、どうしてでしょう?
答えは、B社の「新人導入教育」の方がA社よりも充実していたから。特に、配属後半年間実施されるB社の「新入社員指導担当者制度(マン・ツー・マン教育)」は、事前にサークルの先輩たちから「自立と成長には欠かせない制度」と聞いていたので、迷わずB社に決めたそうです。「新入社員指導担当者制度(マン・ツー・マン教育)」は、メンター制度、シスター制度、ブラザー制度など、いろいろな名称が付けられていますが、どれも、先輩社員が新入社員に1対1で仕事を教え、会社生活に関するアドバイスも行う教育システムです。対人関係に不安がある新入社員にとっては、手厚く教育を提供してくれますので夢のような制度と言えます。
この制度は、上司から与えられた目標(仕事の目標・能力開発目標)に向かって、先輩と新入社員が二人で一定期間(半年とか一年)、共通のテキストを使い、シート記入、振り返り面接などを通して成長していくものです。教育の柱となるのは、作成した共通データなので、1対1という濃密な関係がありながら、好き嫌いや主観に左右されにくい。そのため、新入社員全員がバラツキなく高いレベルで育つのです。
指導担当者制度は、昭和の高度成長期からOJT教育(On The Job Training:職場内教育)の一環として長い間高い教育効果をあげてきましたが、これまた成果主義が導入された頃から、「いくら教えてもそれが自分の成績に反映しない」「新入社員もライバル関係になった」という理由で、中止あるいは形骸化した企業が多いと聞きます。しかし、この制度は、システム自体に力がありますので、荒れた職場を回復へ向かわせることが十分可能です。「3年3割問題」で悩む企業には、この制度の導入、あるいは再導入によって職場の立て直しを図って欲しいと思います。
意外に知られていないことに、この制度は新入社員のためと思いがちですが、実は、「教えることは学ぶこと」の如く、同時に教え手である先輩たちのレベルアップが期待できる。これが最大のメリットなのです。したがって、制度を再開すれば、荒れた職場は、教え手の人たちが中心となって修正していくことになると思います。
新入社員に最初に教えること
新入社員教育は、新入社員の「早期育成・早期戦力化」を目指してスタートしますが、最初に教えてもらいたいことがあります。それは「教わり方」です。よい「教わり方」とは、相手がもっと教えたくなるような態度・行動のことです。中身は、マナーでありコミュニケーションスキルなのですが、行動レベルで示していますので実践しやすいと思います。
教わり方のスキル
- 曖昧な態度はダメ
わかったときは「わかりました」。わからないときは見栄を張らずに「ここがわからない」とはっきり丁寧に言うこと。 - 中間でのやりとりを大切にする
困ったとき、迷ったとき、時間内に仕事が終了したときは、原則、仕事の指示者に声を掛けること。指示者が忙しそうにしていても、遠慮しないこと。声をかけることが仕事、と思うこと。 - 教わりっぱなしはダメ。 やりとりについては、必ずメモをとる。結果がどうだったか、ノートに記録しておく。次に聞くときは、ノートをみてから質問をする。これが教え手に対するマナーである。
- 先輩のメリットを理解する。 1から3を実践すると、先輩たちは常に仕事の進捗状況が把握できるので助かる。また、あなたの能力や成長度がわかるので、指導しやすくなる。そしてもっと教えたくなる。
まとめに代えて 3×1か、1×3か
昭和の最後の頃ですから相当前になりますが、ある教育雑誌の巻頭に、<3×1か、1×3か>という文章がありました。
アメリカのデパートに入社した2人。隣り合わせの売場に配属になりました。3年が経ったころ、ひとり(凸さん)はマネジャー補佐になりました。もうひとり(凹さん)に辞令は発令されませんでした。もちろん凹さんは、人事に抗議に行きました。「私も凸さんと同じように3年間頑張りました。なぜ昇格しないのでしょうか」
すると人事部長は、穏やかにしかし厳しい目で答えたそうです。「凸さんは、毎年実績も能力開発も積み重ねて3年過ごした。でも凹さん、あなたは1年を3回やっただけだから」
これは凸さんより凹さんが劣るという話ではなく、二人の教育環境の違いを示しています。凸さんの職場は、どんな仕事でも力を抜かず努力するように教えたと思います。その結果、実力が付いたのです。一方、凹さんの職場はそうではなかった。
新入社員はみんな、凸さんのような職場に配属されたいと願っていることでしょう。3×1のパターンで成長が約束されるのであれば、「辞めたくない」「ここで仕事がしたい」と強く思います。先輩たちは新入社員にそう言わせるような教育をしてもらいたいと願います。「3年3割」問題は、新入社員が問題だと考えるのではなく、受け入れ側の職場に問題がある、そう考えれば、解決は早いと思います。
(出典:近藤成子「簡単に辞めさせないぞ、新入社員!~荒れた職場の中で形骸化する人材育成」『共済と保険』2010年4月号、日本共済協会、2010年)
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